この夜が明ける頃俺達は風になる
勿忘の花びらを舞い上げて吹き抜ける

  
決められた死の前夜。
懐かしい人の傍にあっても誰も気づかない、誰も見えない『風』になる。
勿忘草の花びらを散らすのは、「わたしを忘れないで」なのか。
それとも、「どうか忘れて、しあわせになって」?
  

闇の静寂に十六夜の月
季節が黒く血を流してる
潮騒の音 抜け殻だけを残して

  
少しだけ欠けた月。蒸し暑い初夏の夜。
明日で終わる未来を、受け入れたはずでも心に深く落ちる影。
明日も明後日も変わらず続く波の音。
誰かの心に残る自分は過去の面影、今日限り自分の時間は止まってしまう。
  

変わらないこの世界
くだらねえこの世界
そんなこと誰だって 子供だって知ってるさ

  
守る価値があるのか?
命を捨てる価値はあるのか?
そんなことを考えては、愛する人の顔を浮かべて打ち消したりした。
  

だけど俺達 泣くためだけに生まれたわけじゃなかった筈さ
ただひたすらに生きた証を刻むよ 今
  
俺達は風の中で 砕け散り一つになる
辿り着く場所も知らぬまま燃え尽きる

  
何のために生きた?
何のために死んでいく?
最後に残るものは涙だけじゃないと誰か信じさせてくれ。
この空に描く最後の軌跡が、刹那で消えていくものではないと言ってくれ。
  

この夜が明けるまで酒を飲み笑いあう
俺達がいたことを死んだって忘れない

  
最後のひとときを笑いあう。明日にはもう誰もいない。
時間は無情に過ぎていき、この夜は必ず明けてしまう。
この時間を、誰も知らない。
知る人は誰も残らない。
忘れるものか、忘れるものか、忘れるものか。
誰が忘れたって、誰も知らなくとも、俺達は俺達を忘れない。
忘れることなどしない。
  

「めんどくせぇなあ 逃げちまおうか」
今更誰も口にはせずに
あどけないまま眠る横顔 震える胸

  
軽口に紛れて、「逃げてしまおうか」と呟いたこともあった。
今はもうできない。ようやく決めた覚悟がきっと崩れてしまう。
酔い潰れて眠る、幼さを残した友人達の顔に、思う
「なんで、こいつらが死ななきゃなんねえのかなあ…」
彼らのための涙が零れた。
自分自身の死への実感ばかり、今もまだ遠い。
  

愛しさも淡い夢も この空に溶ければいい
誰も皆コバルトブルーの風の中

  
明日の天気予報、南の海は快晴。
ずっと好きだったあの子にも、喧嘩してばかりだった親友にも、
父にも、母にも、もう会えない。
薄らと描いていた夢ももう叶わない。
  
ああ、煙になって消えるのではなく、
海に沈んで朽ちるのではなく、
青い青い空に溶けてしまいたい。
せめて、
せめて。
  

さあ 笑え 笑え
ほら 夜が明ける 今

  
東の空に金のひかり。
  
終わりの時が近づいています。
僕は最後の手紙を書いています。
皆さんを守るための戦いだから、
僕はなんにも怖くないのです。
  
僕は笑って逝きます。
皆さんもどうか、
笑って生きてください。
  

俺達は風の中で砕け散り一つになる
大げさに悲しまずにもう一度始まってく
  
俺達は…俺達は…
風の中